研究成果

口頭発表

平成十 九年度古事記学会大会(平成19年6月17日)発表

 

荷田春満の『日本書紀』研究と卜部家との関わり

 

渡邉卓(國學院大學大学院博士課程後期)

《発表要旨》

 荷田春満は国学の祖としても位置づけられ、国学四大人の一人に数えられる人物である。春満の研究は、國學院大學から刊行中である『新編荷田春満全集』などによって明らかにされようとしている。その春満の研究の中でも『日本書紀』は中心的文献のひとつであった。『日本書紀』に関する春満の著述は多く、また門人による春満の講義の聞書も多く現存している。春満にとって『日本書紀』研究の中心は神代巻であったようであり、巻三以降にくらべると圧倒的多数を占めている。
 春満は『日本書紀』研究において、多くの先行論を目にしていたことは間違いないが、どのような過程を経て研究が形成されていったかについては、決定的な解答を得ていない。だが春満の『日本書紀』研究を考えていく上で注目すべき資料がある。それは天理大学図書館所蔵の『卜部神代巻抄』上巻である。この本の表紙見返しには萩原兼従、吉川惟足、奥村仲之、そして荷田春満の名が書かれており、講説伝授の系統が記されている。書名が記すとおり『卜部神代抄』は卜部家の神代巻に関する注釈である。この本に、春満が名を連ねていたことからも、卜部家との学問的つながりがあることは間違いないであろう。また『新編荷田春満全集』刊行に伴う東羽倉家の調査で、『釈日本紀』の所蔵が明らかになっている。この点からも春満の『日本書紀』解釈に卜部家の影響が想定される。そこで今回の発表は、春満の神代巻解釈と卜部家の解釈を具体的に比較検討することにより、春満の『日本書紀』研究の形成と展開の一端を明らかにする。またこの比較は、中世から近世の過渡期における『日本書紀』注釈史の考察ともなろう。

 

 

戻る

トップページへ